ある夜の湯舟で

出産後、毎日がめまぐるしく過ぎていく中で、唯一の癒しだったのが、お風呂の時間でした。
好きだった海外旅行も、朝まで友人と語り明かす夜も、大変だけどやりがいのある仕事も、自然に目が覚めるまで眠る休日も、ちょっと遠い存在に。

息子の夜泣きが続き、朝まで抱き続け、肩も腰も限界だったある日。
夫に息子を預け、ようやく湯舟に浸かったとき――ふと思い出したのが、モネの《睡蓮》でした。

大学の卒業旅行で訪れた、パリの美術館。そこで出会ったの、圧倒されるほどの大きなキャンパスに描かれた、静かで美しい《睡蓮》。
まるで絵の中に入り込んだような感覚に夢中になったことが、ふと心によみがえったのです。

「今はまだ、どこにも行けない。でも、せめてあの絵の中に浸かるような、現実から離れた時間を少しでも過ごせたら…」
こんな夜中のバスタイムに、この入浴剤のアイデアは生まれました。

忙しい日々の中で、ほんの少しでも心がほどける時間をお届けできますように。

開発小話

蓮の花

今回、海塩やシリカと同様に、どうしても入れたかった成分のひとつに、蓮の花のエキス(ハス花オイル)がありました。
モネが描いた睡蓮は見た目の美しさだけでなく、実は肌にも魅力的な成分だったのです。

けれど、天然の塩を使っていることもあり、容器との相性や成分の安定が難しく、今回は見送ることにしました。

目で楽しむため、透明な容器にバスソルトを入れたかったので、両立が難しかったのです。
でも、今も変わらず、いつか形にしたいという気持ちは持ち続けています。
時間がかかっても、納得できる方法を見つけて、また挑戦してみたいと思っています。

起業と製品をつくる難しさ
開発には、気づけば1年以上の時間がかかりました。小さなスタートだったこともあり、たくさんの企業に問い合わせても、返事すら返ってこないことも多くありました。
ようやくお返事をいただけても、詳しく説明する前に軽くあしらわれてしまう事も。

それでも、自分の中にある「こういうものをつくりたい」というイメージはぶれなかったし、
使う人にとって特別な時間になるものにしたいという想いは、ずっと変わりませんでした。


そんな中で、ひとりの担当者さんと出会いました。最初からすべてがうまくいったわけではないけれど、
ひとつひとつのやり取りの中で、「私以上にこの製品のことを考えてくれているかもしれない」と感じる場面が何度もありました。

同じ目線で製品について、手に取る人について考えてくれる。とても心強かったです。
「自分が納得できないものは、世に出したくない」その気持ちだけで突っ走っていた私は、何度も救われました。

このBath of The Artは、わたしひとりの力では生まれなかった製品です。
一緒に悩んで、一緒に喜んでくれた人たちと、丁寧に積み上げた時間の結晶だと思っています。